1. 震災による経営難を理由とする人員整理・解雇について、細川律夫労相は国会審議において、「震災を理由に無条件で解雇ということはできない」と答弁しています。これは整理解雇に対しては、①人員整理の必要性、②解雇回避努力、③被解雇者の人選の合理性、④手続の相当性等の4要件の充足が必要とされており、単に経営上の困難だけでは「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合」は、解雇権の濫用で無効という労働契約法16条に即した答弁です。
実際、被災した中小企業経営者の中には、従業員を解雇せずに会社再建を図っている経営者もおられる一方、十分な経営努力をしないまま便乗的な人員整理を行っていると思われる企業(例えば、ソニー多賀城工場や東北リコー等)もあります。
国・自治体は、雇用調整助成金制度等の「雇用を維持するための支援」を活用しながら、企業に対して解雇を回避するための法的義務および社会的責任を果たすことを求めていく必要があります。
なお、解雇予告手当の支給(労基法20条1項)については、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合」、「その事由について行政官庁の認定を受けなければならない」(同条1項但書・3項、19条2項)と定められています。労働基準監督署長は、上記の趣旨に即して安易な除外認定を行ってはなりません。
2. 労働者の「勤労の権利」(労働権)は、憲法上の基本的人権として保障されており(憲法27条1項)、その実現に責任を負っているのは、先ず国・地方自治体です。しかし、その雇用が、臨時・パート・派遣等の低賃金で不安定な非正規雇用であっては、被災地における労働者とその家族の生存権保障(憲法25条)の確保は不可能です。
いま、被災した県・自治体に緊急に求められているものは、震災の復旧・復興のために各分野で公共サービスに従事する地方公務員の増員と、公共関連事業で働ぐ労働者に適正な賃金・労働条件と雇用の安定・継続を保障する「公契約条例」の制定・・実施です。公契約とは、国・自治体が行う公共工事や委託事業にづいて、民間業者との契約に当たって、事業に従事する労働者の賃金・労働条件を適正に定め、その確保を目的とするものであり、既にいくつかの自治体で制定または制定に向けての取り組みが行われています。
労働者の賃金額の保障としては、都道府県ごとに毎年改定されている最低賃金制がありますが、宮城県の現行最低賃金は時給674円と甚だ低額であり、これを全国一律の1000円に引き上げるという課題と共に、この公契約条例または同要綱の制定・実施をテコとして、被災地の労働者全体の賃金・労働条件の引き上げに繋げていくことが可能ではないでしょうか。それに要する財源は、被災地支援としての国家的助成が必要とされます。